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旅の果て 第三回

      2015/07/30   posted by

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 夕飯は大好きな煮魚だったが、味わう間もなくそれを掻き込み、私は早々に自分の部屋に戻った。部屋の中央に腰を下ろし、無意識のうちに口を押さえ、考えた。

 あれは、誰だったのだろうか。

 世界には自分によく似た人間が三人は存在しているという。事実、これまでの旅で幾度となく、自分に似た人間にあってきた。当たり前の話だが、この旅をしている間、私は本当の私の顔を見ることができない。だからその度に懐かしい気持ちになったものだ。

 しかし今回は特別である。他人の空似にしては、あまりにも私に似すぎていた。背丈、体格、顔付き。何もかもが私そのものであった。鏡に映したような、そんな陳腐な表現すら頭を掠める。だが不思議と気味の悪さはなく、勿論驚きはあったものの、これまでと同様に、懐かしい気持ちに包まれていた。

 そういえば。ふと、私はあのカレンダーを見た時の感覚を思い出した。「朝子」という名前を見た時、得体の知れない感覚に陥ったが、今思えば、それは懐かしさではなかっただろうか?さらに言えば、あの洞窟でも、そんな懐かしさを感じていなかっただろうか?

 しかしむしろ、あの男に対しては、いつもよりも強烈な懐かしさがあった。それはあの男の姿というよりも、姉と言葉を交わす、


という、その情景に対して抱いた感情であるようだった。いや、あれは懐かしさだっただろうか?もっと別な感情であるような気もする。 

 何故かは分からない。幾度と自問を繰り返したが、答えが出ることはなかった。


 不可思議な感覚を引きずったまま、二日、三日と過ぎた。私は相変わらず暑い日差しの中、健一と共に洞窟の地図を作っていた。あの五叉路が気に掛かったが、探検は一番奥の空洞周辺が中心となっていた。涼しかったことが一番の理由である。

 地図が形を成すにつれ、洞窟が思いの他広大であることが分かってきた。健一は興奮していたが、私は妙に冷静で、依然として五叉路が気になっていた。次の人物に移るまで、恐らくあと、三日。それまでにはあの奥を確かめたいと思っていた。

 そしてこの場所に来てから六日目のことである。


 その日は朝から様子が違っていた。どこかそわそわと、何か楽しげな、そんな雰囲気だった。姉もどこか落ち着かない様子だった。何かあるのだろうかと、昼食を済ませてから、外に出た。すると商店街の様子は一変していた。軒先には提灯が並び、道には無数の幟が立っていて、それは山の方へと続いている。ようやく分かった。祭りがあるのだ。

 例の駄菓子屋の前に来ると、既に健一がラムネを片手に腰を下ろしていた。健一は私の姿を認めると、片手を挙げて挨拶した。私はその横に腰を下ろした。

「今年の見世物は何かなぁ。」

 健一が楽しそうな口調で言った。縁日で見かける見世物小屋のことだろう。大抵が話にもならないインチキなのだが、ごく稀に、本当に価値のある見世物があるから油断ならない。そういえば、最後に見世物小屋に入ったのは、いつだっただろうか。

「今年も見に行くだろ、慎ちゃん?」

 そう言って、健一はラムネを一気に空ける。考えて見れば、日本が久し振りなら、祭りも久し振りである。だんだんと楽しみになってきた私は、にっこりと頷いた。

「よし、じゃあ、今日も探検だ。」

私と健一は揃って立ち上がり、一目散に駆け出した。


予定通り、新しい道を三つほど書き加えたところで切り上げることになり、私と健一は再び駄菓子屋の前にいた。いつものような夕暮れで、私はニッキ水を、健一は本日二本目のラムネを飲んでいた。

「それにしても、一体どこまで続いているんだろうなぁ。」

 今日の探索で、地図はとうとう半紙一枚では足りなくなり、改めて洞窟の広大に驚いてしまった。ひょっとすると、あの洞窟は山の内部全てを網羅しているのではないか、と思えるくらいである。

「もしかすると、もっと広い空洞があるかもしれないねぇ。」

 私の言葉を聞いて、健一は眼を輝かせ、興奮気味に言った。

「どこか別の場所に通じてるかもしれないな。」

「通じてるよ。」

 その自分の言葉に、私は驚いた。単なる相槌としてではない、確信を持って私は応えていた。間違いなく、あの洞窟はどこかに通じていると。何故、そう言えるのだ? そんな私の戸惑いを他所に、健一は益々興奮していた。

「そうなれば大発見だ!どんな所に出るんだろうなぁ」

 やはり私はあの洞窟を知っているのだろうか?だとしたら、何故知っているのだ?

「慎ちゃん、全部探検するまで、絶対に内緒だぜ。絶対だからな。」

 健一は楽しそうに、カラカラとビー玉を鳴らした。


 山の向こうの境内で待ち合わせということになり、私は一旦健一と別れた。私はふわふわとした気持ちのまま、玄関をくぐる。そのまま自分の部屋に向かおうとした、その途中、縁側に腰掛ける姉の姿を見つけた。

 姉は長い黒髪を上げ、紺地に桃色の花をあしらった浴衣を着ていた。手持ち無沙汰に団扇を仰ぎ、いとおしげに夕陽を眺めていた。姉の肌は紺色に映え、夕闇の中でも白く輝いているようで、私はしばし見とれてしまった。そう、とても美しかった。

 私の視線に気付いたのか、不意に姉はこちらを向いた。

「あ、お帰り。」

「うん。」

 一瞬、言葉に詰まった。何故だか照れ臭くなってしまったのである。

「今日のお祭り、健ちゃんと行くんでしょう?」

「姉さんも、行くんだろう?誰と行くんだよ。」

 すると姉は頬を赤らめて、ころころと笑った。

「誰って、智之さんと。」

 智之。また、何かに引っかかっている、なのに心を包まれるような、懐かしさ。それは「朝子」という名を見た時と全く同じ感覚であった。と、その時、

 「ごめんください。」

 玄関から若い男の声がした。姉の顔がぱっと明るくなり、足早に玄関へと向かった。私もその後を追う。玄関には背の高い男が立っていた。それはあの有暮れ時、玄関先で姉と楽しそうに話をしていた、あの男だ。彼が、智之が、そして私が、いた。

「いらっしゃい、智之さん。」

 姉は少し頬を赤らめて、智之を迎えた。私はその横で、じっと彼の顔を眺めている。その視線に気づいたのか、智之は屈みこんで私に話しかけた。

「こんばんは、慎一くん。君も行くんだろう?」

 そしてにっこりと、柔らかく、微笑んだ。その微笑に飲まれそうになったが、

「智之さんは姉さんと行くんだってね。」

 すると彼も姉同様に、ほんのりと頬を染めた。分かっていたことだが、二人は良い雰囲気である。改めてそのことを確認すると、不思議なことに、より深い懐かしさ、いや、安らぎが胸を包んでいた。懐かしさではない、それは急に安心したような、感覚。

 この二人には幸せになってもらいたい。いや、幸せになるはずなのだ。

 そんな妙な確信めいたものが去来していた。私の感情はぐちゃぐちゃだった。

「じゃあ、先に行くからね。」

 堪らず私はそう叫んで、家を飛び出した。そうでもしないと、あの場で泣き出してしまいそうだったのだ。事実、境内へと向かう道で、私は涙を流していた。


 境内に近づくにつれ、祭囃子が聞こえ始めた。ぼんやりとした提灯の明かりが私を導く。道なりに歩いていくと、大きな鳥居が見えた。その下には大勢の人間が楽しげに賑わっている。鳥居の向こうには色とりどりの屋台が軒を連ね、祭りの気分を一層盛り上げていた。

 辺りを見回すと、健一は鳥居の横にいた。そちらに近づくと、健一は私に気付いたが、すぐに顔を曇らせた。

「どうした、慎ちゃん。泣いているのか?」

 先程の涙がまだ乾ききっていない。きっと痕が残っているのだろう。私はごしごしと顔を擦り、黙って首を振った。健一は心配そうであったが、すぐに笑顔を浮かべ、それ以上は何も尋ねてはこなかった。

 境内に入り、私達はあちこちの屋台を覗き込んだ。綿飴、焼きとうもろこし、駄菓子に、簡単な玩具。どれも懐かしい品ばかりであった。横の健一はどれを買おうか迷っていたが、結局タイヤキを頬張っていた。私は思案の末、カルメ焼きを選んだ。コクと少し苦味のある甘さを感じながら、私達は境内の一番奥、御神体の所までやってきた。石段に腰掛け、夢のような祭りの風景を眺める。

 ぼんやりと、姉のこと、智之のこと、それに洞窟のことを考えていた。

 これまで旅を続けていたが、今回は実に不思議だった。妙な感覚、感情が入り乱れる。なのにそれは、決して不快ではないのだ。そして幾度か訪れた、確信めいた思い。これは一体何なのだろうか。この場所には、何か特別な意味がある。そんな気がしていた。

 確かめてみたい。しかし、何を、どうやって確かめる?

「さぁ。そろそろ始まる頃だ。今年は何を見せてくれるのかね。」

 そう言って健一は立ち上がった。そう、見世物小屋が開くのだ。しかし頭の中はこの場所のことで一杯で、既に興味は失せていた。それでも健一に引かれるがまま、私は見世物小屋の中へと消えていった。


 祭りが終わり、家に帰ると、喧騒から解放されたから、急に疲れを感じた。私はのろのろと布団を敷くと、そのまま倒れこみ、自然と目を閉じた。あっという間に闇に包まれる。しかし意識ははっきりとしていた。やがて闇の向こうから、ぼんやりと映像が浮かぶ。


それは洞窟の入口だった。気が付けば、私もその洞窟の入口に立っていた。辺りを見回すと、いつも一緒にいるはずの健一の姿はなかった。ただただ天頂には太陽が輝き、木々の間から光が差し込む。私一人、何故こんな所にいるのか。それに加え、地に足が付かないというか、ほんの少し身体が浮いているような感覚があり、それが何とも不思議だった。

 と、不意に足が動き、滑るように洞窟の方へと導かれた。自分の意思ではない、何かの力が加わっているというのに、何故か焦ること無く、そのままに洞窟の中に入っていった。

 右へ曲がり、左へ折れ、真ん中の通路を選ぶ。何回か選択を繰り返した後、あの五叉路に到着した。目の前には昼間の探検で判明していない、前方に一つ、右方向に一つ、計二つの通路が口を開けている。そこで急に浮遊感がなくなり、私は地面に舞い降りた。急激に体重を感じる。

 と、尻ポケットに何かを感じた。取り出してみると、それは健一と作っていたあの地図だった。しかしそれは全ての道が記された、完全な地図だった。よく見れば、少し黄ばんでいる。しかし私はそんなことを気にすることなく、五叉路の箇所を覗き込む。そこには大きな矢印が記されていた。それは丁度、目の前の右の通路を指し示し、


 目が覚めた。辺りはまた仄暗い。まだ夜は明けていないようであった。

 私はたった今見た夢を思い出していた。洞窟。五叉路。古びた地図。矢印。

 あの矢印は何だったのだろう。何かを示しているのだろうが、それは、何だろう?

 突然、強烈な違和感を感じた。何かが間違っている。しかもそれは、私自身だ。


 ポケットに小さな蝋燭と、マッチを忍ばせ、私は家の者を起こさぬよう、そっと家を出た。この違和感は何なのか、何が間違いなのか。全てはあの洞窟にあるように思えた。地図はないが、夢で見た地図が頭の中に焼きついているから、迷うことはないだろう。
 山の麓に着く頃には、東の空が白み始めていた。


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過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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