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道満晴明 「ヴォイニッチホテル」

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 さて「ニッケルオデオン」にて(正確には「よりぬき水爆さん」にて)道満先生を再発見した私は、当然のことながら別の作品も読みたくなり、そうなるととても便利な熱帯雨林で、アレコレ経緯は省略しまして、今回ご紹介するのは道満晴明先生の「ヴォイニッチホテル」であります。

 「ニッケルオデオン」の回でも触れましたが、道満先生は元々成人マンガ家です。しかし本作はフツーの青年誌に連載されていた作品です。珍しい。が、そこは道満先生ですから、もちろんそれなりの成人成分が含まれているので、全くスッカリ安心です。それでは本作のあらすじからご紹介いたしましょう。

 

 

 南太平洋に浮かぶ小島、ブレフスキュ島。この島に立つ一軒のホテル、「ホテル・ヴォイニッチ」。とある理由でこの島にやって来た日本人クズキは滞在先としてこのホテルを訪れる。見た目まんま中学生のエレナと、体中が傷だらけのベルナの2人のメイドによって営まれているこのホテルには、様々な人間が訪れる。連続殺人鬼「スナーク」の影、ホテルの地下のボイラー室、どこかで聞いたような「サンヨリピーロランド」。それぞれの思惑が交錯する中、今日も事件が起こる…。

 

 

 平たく言えば本作は群像劇でして、複数の登場人物が入り乱れた、ギャグ、エロ、グロの何でもありの内容となっております。本作は主に3つの流れによって構成されています。1つはエレナとクズキを中心とした「ホテル・ヴォイニッチ」の物語、1つは島の子供たちによる「少年探偵団」の活動を中心とした物語、もう1つ連続殺人鬼「スナーク」を巡る物語で、これらが時に近づき、離れながら語られていきます。ここではこれら3つの物語について簡単にご紹介しましょう。

 

 まず「ホテル・ヴォイニッチ」の物語です。この物語では、クズキとエレナの恋の行方が描かれています。当初は客とメイドという関係でしたが、エレナの天真爛漫な明るさに惹かれるクズキ。そしてエレナもまたクズキの優しさに惹かれていきます。しかしそこへ、クズキを追って不穏な影が迫ってきます…。

 次に「少年探偵団」の物語です。この物語では、「少年探偵団」のリーダーである「リーダー(作中に本名が示されていない)」を中心として、「ホテル・ヴォイニッチ」をはじめ、ブレフスキュ島の謎を探る様子が描かれています。最初はほんのささやかな子供の遊びだったのに、やがて恐るべき真相に辿り着きます…。

 最後に「スナーク」の物語です。この物語では、島を揺るがす連続殺人鬼「スナーク」を中心に、その狂気が描かれています。性欲と支配欲、それに異常なまでの優越性を求める殺人鬼「スナーク」。警察の追及もむなしく、次々と獲物を手にかけます。しかしその最期はあまりにも人間的だったのです…。

 

 これら3つの物語が同時に進行していくのですが、ここでふと気が付きました。本作が「何の話なのか」と聞かれますと、実は答えに窮するのです。クズキとエレナの恋の物語であるような気もしますし、リーダーの成長の物語のような気もしますし、殺人鬼「スナーク」の哀しい物語のような気もします。しかしその一方で、クズキの物語でも、リーダーの物語でも、「スナーク」の物語でもない気がします。

 先述のように、本作では様々な物語が同時進行で語られているのですが、どれがメインストリームであると言い切ることが非常にむつかしく、先の3つの流れもどれもが重要であり、しかし同時にどれもが支流であるようにも思えます。というのは、どの流れも単独で成立しているわけではなく、それぞれの物語が互いに影響し合って成立しているからです。

 つまり、3つの物語全てで1つの物語となっているわけで、また登場人物は必ず「ホテル・ヴォイニッチ」を訪れていることから、「ホテル・ヴォイニッチ」を巡る物語という事は出来ます。しかしこの「ホテル・ヴォイニッチ」すらも、物語全体から見れば1つの箱、単なる舞台の1つに過ぎず、実際はこのホテルを訪れた全ての人間のそれぞれの人生、それぞれの人間関係を描いた物語であると言えるでしょう。ですから本作は紛れもなく「群像劇」であり、「人間の物語」と答えるべきなのかもしれません。

 

 このように書きますと、非常に複雑な内容のように思えますが、しかし1話が非常に短い上に、しっかりと起承転結が設けられており、しかも基本バカ全開のギャグ中心ですので、非常にテンポが良く、メチャクチャ笑えて、読みやすいです。そのクセ数話にまたがる伏線の張り方とその回収も見事で、1話1話が物語全体を構成する1部分としてしっかりと機能しています。結果、1話と全体の関係性をおぼろげながらも捉えることになり、物語の大きな流れを無理なく掴むことが出来ます。この構成は実に巧みです。

 加えて道満先生のポップで可愛らしい絵柄は物語に軽快なリズムを与え、ページを繰る手を導いてくれます。また先述の通り、本作は結構エログロな描写があるのですが(もちろん必然性はあります)、しかしこれも絵柄のおかげでソフトに捉えることができ、物語のテンポを途切れさせません。また、この絵柄がキャラクター造形にも一役買っており、善人はもちろんのこと、悪人もどこか憎めない雰囲気を醸し出しており、結果、魅力的なキャラクターが賑やかに動き回る作品となっています。

 ですから読者は最初、本作を1話完結の軽い読み物として認識しますが、読み続けることで自然と物語全体の形が頭に浮かんできます。そして全て読み終えると、非常に複雑な多層構造であることに気が付き、しかし自分が全く混乱せずに読み終えたことにも気が付くと、非常に強い驚きと、言葉にしづらい感情を抱くことになるのです。この技量は驚くべきものです。「ニッケルオデオン」からさらに進化した、道満晴明という作家の力量を強く感じることが出来る傑作と言えるでしょう。

 

 

 …とはいえ、ネタバレを避けるあまり、我ながらなんだかよく分からないレビューになってしまいました。これを読んで「よし、読んでみよう!」と思う奇特な方がいるとは到底思えません。ここは試し読みが一番ですね。ということで、こちらでこの独特の世界観をお試しください。そして気に入られましたなら、道満ファンのはしくれとして、こんなに嬉しいことはありません。



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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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