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三島由紀夫 「不道徳教育講座」

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 毎日様々なニュースが取り沙汰されていますが、何かしらのニュースが報じられると、ネット上ではワケ知り顔の有識者の皆様方が、やれ「けしからん」だの、やれ「人間とはこうあるべきだ」だのと、実にタメになる正義や道徳を開帳しております。

 なるほど、正義や道徳大いに結構、しかし正論ばかりが通るほど人間は単純に出来ておらず、生来人間は言いつけを背くように出来ているのは、かの知恵の実をうっかり食べてしまったことからも明らかなのです。

 つまり至極もっともな道理だけでなく、時にはひねくれた逆説的な道理の方が心に響くことがあるわけです。今回ご紹介する本、三島由紀夫の「不道徳教育講座」はまさにそんな本で、本書冒頭にはこうあります。

 

 

 井原西鶴の小説に「本朝二十不孝」というものがあり、これは古今東西の親不孝の話を集めたものである。読んでみたところ、なまじ親孝行の話を読むよりも痛快で、徹底した親不孝ぶりに「自分の親不孝などまだまだだ」と思い、しまいには「自分はなんて親孝行なんだろう」と思うに至った。そこで私も現在(昭和33年)流行の道徳講座をもじり、ここに「不道徳教育講座」を開こうと思う。

 

 

 ということで、堂々と正道を外れることを大いに勧める、大胆不敵なワルイ大人のエッセイなのです。

 

 

 本書は全部で69章からなり、各章曰く、

 

・教師を内心バカにすべし

・大いにウソをつくべし

・友人を裏切るべし

・約束を守るなかれ

・人の不幸を喜ぶべし

 

 などなど、これでもかとワルイことが書かれております。しかし当然のことながら、ただただワルイことを勧めているわけではありません。例えば「教師を内心バカにすべし」の章では、こんなことが書かれています。

 

 

 先生という種族は、諸君の遭う大人の中で、一等手ごわくない相手なのです。…先生をバカにすることは、自分の敵はもっともっと手ごわいのだが、それと戦う覚悟が出来ていると予感しています。

 

 

 つまり「目先の権威になびくな」ということで、三島はこの社会を動かしている本当の「大人」と戦いなさい、と諭しているのです。また「友人を裏切るべし」の章では、

 

 

 少なくとも男の精神的成長は…友人を裏切ることによって、行われると言っても過言ではない。これは…精神的に裏切るという意味ですが、…「さすがはあいつだ。洞察力がある」などと感心していたのに、今日はそれを、「あいつの思想ときたら、シャレた格言みたいなものの他に何もないじゃないか」と思うようになる。その時君はすでに友人を精神的に裏切ることによって精神的に成長したのである。

 

 

 「友情というのは切磋琢磨であり、なあなあではダメだ」ということですね。なあなあは確かにぬるま湯で居心地は良いでしょうが、あってもなくても同じようなものですから、案外長続きはしないのかもしれません。しかしこの点を三島は掘り下げています。曰く、

 

 

 友人を裏切らないと、家来にされてしまうことが往々にしてある。…主人側がなかなか利口で、あくまで対等の扱いをして、…実は完全な精神的主従関係を確立しているのです。これは家来側が、すっかり降伏して、忠誠を誓い、かつ主人の才能や力を利用して虎の威を借りており、主人側が…十分に利用させてやりながら、アゴで使っているという関係で、…裏切りがない限りいくらでも永つづきします。

 

 

 …なあなあでも長続きする場合があるようですが、どこかの国同士みたいですね。三島由紀夫の最期を思うと、何だか複雑です。

 

 

 このように、確かに不道徳な事柄を次々と挙げていきますが、しかしその真意は実に深く、人間や社会の本質を鋭くえぐり出しています。とはいえ、本作は週刊誌に連載されたものをまとめたものなので、各章は短く、簡素で簡潔、かつくだけていて、リズミカルで、肩の力の抜けた、とても読みやすい作品です。

 実際、私は三島由紀夫の作品は「仮面の告白」くらいしか読んだことがなく、「なかなかむつかしい作品を書く人だ」という印象が強かったのですが、本作を読んで「本当にアノ三島由紀夫なのかしら」と目を疑うくらい、非常におどけた文体で、気持ちよくスラスラと読むことが出来ました。

 しかし、各章に込められた「人間とはなにか」という鋭い視線に気付くや、おどけた文体の向こう側に冷徹な思考を垣間見た気がして、何故か悪魔メフィストフェレスを思い浮かべてしまいました。そう、言葉巧みに楽しげな話をしながら、その実ジッとこちらの本性を見据えている悪魔メフィストフェレス…。純文学の三島が天使ならば、本作の三島は間違いなく悪魔でしょう。

 

 

 もしあなたが三島由紀夫のことを、やはり「むつかしそうな作家だ」をお考えならば、是非本作をご一読していただければ、と思います。きっと三島由紀夫という作家のイメージがガラリと変わるに違いありません。そうでなくとも、本作は非常に楽しい作品ですので、手に取っていただければと思います。



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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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