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長嶋 有 「ねたあとに」

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 今回はこのブログにしては珍しく、私のオススメの小説長嶋有氏の「ねたあとに」をご紹介しましょう。この作品に出会ったのは、かれこれ10年ほど前に遡ります。

 

 当時我が家は朝日新聞を購読しており、本作はその新聞連載として掲載されていました。最初から読んではいなかったのですが、ある日の挿絵が目に留まりました。挿絵には「大将」「地雷」「スパイ」と書かれたコマが描かれていました。これを見たゲーム脳の私は即座に「おぃ、パイ喰わねぇか『軍人将棋』じゃあるまいか」と朝っぱらから鼻息を荒くしました。私は軍人将棋が大好きなのです。

 カイジやデスノートを遥かに凌駕する心理戦、コマのマネジメント、ワンオアエイトの決断と、およそボードゲームの面白さが全て詰め込まれた傑作で、かつて大学でキャッキャウフフと遊び、周りから「やかましい」と叱られたことがあります。それほど私のハートを盗んでいったゲームなのです(詳しいルールはこちらでどうぞ)。

 

 何故新聞の連載小説に軍人将棋が登場するのか?これは真っ当な小説であるはずがありません(褒めてますよ)。私はすぐに貪り読み、これまでと全く趣向の異なる内容に絶句し(本当に言葉が出なかった)、たちまち作品世界に引き込まれていったのです。が、そこは新聞連載ですから、うっかり読み忘れる日もあり、事実最終回を読めずに連載は終了してしまいました。

 結局私が読めたのはこの作品の断片に過ぎなかったわけですが、しかし私の心には深くタイトル「ねたあとに」が刻み付けられました。が、刻み付けられただけで、そのまましばらくは忘れてしまうのです。

 そして忘れきった頃、本屋(リアルの)である本を探そうと検索機を操作していると、不意にあの言葉が蘇りました。

 

…「ねたあとに」…

 

 私はほぼ自動的に検索に掛け、すると、うわぁ、あったよ、これは買わなきゃと、即座に購入し、2日で読み切ったのが本作、というわけなのであります。それでは本作の内容をご紹介しましょう。

 

 

 物語は小説家「コモロー」とその父「ヤツオおじさん」の持つ山荘が舞台となります。語り手である「久呂子さん」や友人たちは毎年夏になると、この山荘で避暑を過ごす(この言葉使いは合っているのだろうか)のです。

 …みなさん、もしかして、なにか軽井沢とかの高級避暑地にそびえ立つ洒脱な豪邸を思い描いていませんか?すみません、違うんです。平屋で日本家屋で、五右衛門風呂なんです。いかにも「昭和」なフツーの家なんです。しかもちょっとボロいです。でも避暑なんです。本当にすみません。

 

 そしてこの山荘を舞台に、なにも起こりません。事件も事故も奇跡も起こりません。ただただ、避暑としての日常がダラダラと続いていきます。しかし、ただひとつ違っていたこと、それはこの山荘では夜な夜な奇妙な遊びが繰り広げられていたのです。

 …みなさん、もしかして、なにか金持ちの倒錯的な趣味とか、超常的な儀式とか思い描いていませんか?すみません、違うんです。コモローとヤツオおじさんが編み出した非常にくだらないオリジナルゲームなんです。しかも手作りです。その上無駄に凝ってます。本当にすみません。

 

 実はこの山荘、本当に避暑が目的なので、つまり単純に涼むための場所でしかないので、娯楽設備の類がありません。あるのはせいぜいテレビが1台とCDコンポ。一応ネットは繋がりますが、アナログ回線なので異様に遅く、恐らく動画等は見られません。ですから娯楽は自力で編み出すしかなく、その結果生まれたのが、先のオリジナルゲームなのです。そして本作の登場人物は娯楽を求めて、このオリジナルゲームに挑戦することになるのです。

 …あ、みなさん、もしかして、アカギのような大金や血液を賭けた勝負とか(以下略)。え~、申し訳ありません。先程も申し上げましたように、この物語は山荘を舞台になにも起こりません。ですから、登場人物達がゲームに興じるのも単なる暇つぶしなのです。

 

 しかしながら、このオリジナルゲームが非常に破天荒かつ奥が深く、この物語の軸となっています。物語ではいくつかのオリジナルゲームが登場し、ネタバレを避けるためにここでは詳細はご紹介しませんが、一言で言えば、「どれもどうかしています」。いかにヒマを持て余した人間でも、これほどくだらなく、かつ味わい深く香ばしいゲームは考え付かないと言えます。

 

 物語はこれらゲームに興じる登場人物たちのやり取りがメインに描かれ、これが、もう、とてつもなく楽しそうです。というのも、どのゲームも刹那的というか、瞬間的というか、その場にいた人間のみが楽しめる内容となっており、もっと言えばその場の雰囲気と共に楽しむゲームなのです。

 ですから、物語冒頭では、いい大人が暇を持て余してどうでも良いゲームをのんべんだらりと遊んでいるだけのような印象を持ってしまいますが、一度この作品世界に入り込んでしまうと、まるで自分もこの山荘に招かれ、一緒にこのゲームを楽しんでいるような感覚に陥り、なんにも事件は起きていないのに、ページを繰る手を止めることが出来なくなってしまうのです。

 

 恐らく、それはこの物語が「山荘で起こった出来事だけしか描いていない」からだと思います。驚くべきことに、登場人物の「山荘に来る前や来た後のこと」、つまり日常生活は全く描かれていません。それがかえって、この山荘での時間を特別なものとして浮かび上がらせているように思えます。そう、この山荘は「異世界」であり、異世界だからこそ、これらのオリジナルゲームは、奇妙でありながら輝きを増していると言えると思います。それはタイトルである「ねたあとに」という言葉にも込められているのです。その意味は…、是非皆さんの目で確かめていただきたいと思います。

 

 

 本来ならここで某書籍通販サイトへのリンクを張るのですが、たった3つとはいえレビューがあります。本作はこれ以上の事前情報なしに読んでいただきたいので、今回はリンクを張りません。どうかコモローの山荘でのひと時を、皆さんにも楽しんでいただければ、と思います。 



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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

 - 本・コミック, トドメ氏

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