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山川直人 「写真屋カフカ」

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 山川直人氏といえば、ある種趣味的で独特の絵柄に惹かれる方も多いのではないでしょうか。実際、私が氏の作品を知ったのは、週刊ファミ通紙上のコミックビームの広告に掲載されていた氏の代表作「コーヒーもう一杯」のワンカットでした。氏の絵を見た私は「何か大変なものを見てしまった」と、たちまち心を掴まれ、書店へと走ったのでした。

 「コーヒーもう一杯」はコーヒーを巡る様々な物語を綴った連作短編集で、何気ない日常の幸せを扱ったものや、少し不思議な出来事を扱ったものなどで、正直それほど劇的な展開はありませんでした。しかしどれも不思議な安心感なり、いびつな不安感なりを心に残す物語ばかりだったのです。そしてそれらを彩る絵柄は、人物はもちろん、普通はトーンを使うであろう漫画上の効果まで全てペン一本で描かれており、それが物語を一層深みのあるものにしていたのでした。つまりコーヒーをテーマにした物語でありながら、実は作品自体がコーヒーそのものであったわけで、素晴らしい作品でした。

 絵柄はもちろん、綴られる物語の味に魅了された私はたちまちファンになり、次々と山川作品を集めました。若い女性ナルミさんとぬいぐるみのドミノの日常を綴る「ナルミさん愛してる」や、ある商店街の人々を描いた「ハモニカ文庫」、そして最近では漫画家芥川龍之介の生涯を追った「澄江堂主人」など、どれも思い出しては再読するほど、印象深い作品ばかりでした。

 

 さて「澄江堂主人」以降、山川氏は同人活動やカットの仕事が中心となったようで、作品らしい作品を見る機会がなくなりました。そんなある日、私はラーメン屋で何の気なしにビックコミックオリジナルを手に取りました。そしてペラペラとページをめくると、唐突にあの絵柄が目に飛び込みました。それが今回ご紹介する山川氏の新作「写真屋カフカ」でした。

 私は即座に物語に没頭し、相変わらず趣味的な描画に目を見張り、タンメンが来るまで何度も読み返しました。そしてこの連載はどうやら月1、あるいは不定期であることを知り、「これは単行本になるのはいつになるか分からないな」と期待や失望がないまぜになった気分で店を後にしました。

 そしてこのたび、とうとう「写真屋カフカ」が単行本になりました。「いつ単行本になるか分からない」だけに、発売から2か月経って、ようやく手に入れることが出来たのは恥ずかしい限りですが、ともあれ内容をご紹介いたしましょう。

 

 物語は主人公である写真屋カフカの日常が描かれています。カフカは依頼を受ければどんなものでも撮影する、いわゆる普通の写真屋ですが、彼には1つの趣味がありました。それは「これから無くなりそうなもの」を撮影することです。携帯電話の普及により最近は見かけなくなった公衆電話をはじめとした、時代、あるいは技術の発展によって消えゆくモノを、カフカは熱心に撮影するのです。そしてカフカはその被写体に関わった者達に、記念として被写体と共に撮影した写真を1枚進呈します。しかしその写真は、不思議なことに一つの幻想を見せるのでした。

 

 と、これだけだと単なる「懐古趣味」の物語です。しかし先述のように、この作品にはカフカ自身の日常の出来事も描かれています。行きつけの喫茶店での出来事、友人の劇団員の公演、時には不思議な邂逅もあります。基本的に何気ない日常が描かれており、趣味の写真を撮影しない回もあります。しかしこの「カフカの日常」がこの作品を読む上で重要な要素であるように思えます。

 カフカが趣味で撮影している「これから無くなりそうなもの」とは、つまり過去です。対してカフカは仕事としてごく普通の撮影依頼も受け、何気ない日常を過ごしています。つまり現在です。したがってカフカは過去も現在も同時に撮影していると言えなくもないわけで、それはある時代を生きた人間達の想いや営み、引いては人間の歴史であるとも言え、つまりは「時間そのもの」を撮影していると言えるでしょう。

 カフカの撮影した写真が生み出す幻想は、ともすればそのような時間の象徴なのかもしれません。しかしカフカはそのような「時間そのもの」を撮影している、という自覚はありません。考えてみれば当然で、何故ならカフカ自身が時間の流れの中にいるからです。高速道路を走る車が速度に鈍感になるように、ある流れの中にいる者はその全体を知ることは極めて困難なのです。そもそもカフカ自身、「これから無くなりそうなもの」を撮影することは「趣味」としか認識していないのです。ですからカフカは自分が撮った写真がそのような幻想を生み出していることも知らないのです。

 こうしてカフカは自分のやっていることが何なのかも、そして自分の撮影した写真が生み出す幻想のことも知らず、今日も日常を生きています。しかしカフカの写真が生み出す幻想は、少しずつ人々の噂に上り、その秘密を探りに怪しげなフリーライターが登場します。カフカの平和な日常に不安な予感を匂わせて、1巻は幕を閉じるのです。

 

 さて2巻はどのような展開になるのでしょう?そもそも2巻の発売は何年後なのでしょうか?山川氏のブログによれば「1巻の売れ行きによって、話が続くかどうか決まる」らしく、2巻が出るかも怪しい雲行きです。

 ともあれ、山川作品はどれも読みごたえのある物ばかりですので、是非既刊でも手に取っていただければと思います。



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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

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Comment

  1. galthie より:

    こういう日常を描いた作品もほのぼのとしていていいですね。
    「ある流れの中にいる者はその全体を知ることは極めて困難なのです」というところはなるほどと思いました。
    我々がなにげなく過ごしていく中で、気づいたらなくなっているものというのは多いのかもしれませんね。

    『漫画家芥川龍之介の生涯を追った「澄江堂主人」』読んでみたいと思ったのですが、調べたら、漫画家として登場させて描いているというものでいいんでしょうか?

    • todome より:

       確かに山川作品はほのぼのとした日常を描いていますが、しかしその奥に人間に対するある種の洞察が隠れています。それは毒であり、また薬でもある、読み手によって異なる効果をもたらすのです。
       とはいえ、「写真屋カフカ」は実にほのぼのとしておりますので、気軽に楽しんでいただければと思います。

       さて「ある流れ~」ですが、流れの中にいる人間はその流れについての情報を、部外者よりも深く知るが故に、かえって大局を見逃すことが多いようで、例えばバブル経済やガラケーなどがそうかもしれませんね。

       澄江堂主人はお調べになった通り、芥川龍之介を漫画家として描いております。それ以外は史実を下敷きにしております。
       では何故「漫画家」として描いたのか?それは全編読んだ時に明かされますので、是非御一読ください。

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