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竹内佐千子 「2DK」

      2015/10/07   posted by

 人間誰しも好きなものがひとつやふたつあるもので、何かしらの好きなものを楽しんで生きています。そして好きなものを楽しむことだけでなく、好きなものを追いかける過程自体も楽しいものです。そのような探求が、意外にも哲学的な問いに直面することがあったりなかったりするわけで、案外その人の人格を作り上げている一因であり、ひいてはその人の人生の「含み」を生み出しているとも言えましょう。

 …と、なんか面倒臭いことを言いましたが、つまり「楽しくなければ人生じゃない」ということで、「楽しいことが多ければ人間性も豊かになるぜ」という当たり前のことです。かくいう私もゲームを通じて「創造性(あるいはやんちゃ)」を学び、SFやミステリを通じて「論理性(あるいは詭弁)」を学び、マンガを通して「キアイとイキオイ(あるいはガッツとなりゆき)」を学び、その他諸々のいらんことを学んだと思っております。

 

 さて今回紹介する作品「2DK」はそんな好きなものを徹底的に追い求めちゃった女性2人の物語。彼女達の好きなものは所謂「イケメン」です。でも単なるイケメン好きではなく、演技や歌など、ちゃんと芸能としての実力も伴っている方でないと納得しない、ある意味本格志向のホンモノです。2人はドラマ、舞台(握手会を含む)、果ては日曜朝の特撮ヒーローに至るまでチェックし、生活のほとんど、というか人生全てを全力で賭けちゃっている好漢(?)なのです。ではそんな修羅の国の人達をご紹介しましょう。

 

 主人公「阿」である「こむぎさん」はパティシエで、街のお菓子屋さんで働いています。職業柄(つまり翌日の材料の仕込みで)残業が多く、毎日遅くに疲れ果てて帰宅し、寝る前の時間にスーパー戦隊シリーズを見たりして癒されています。少々大人しい印象の方ですが、酒を飲むとカンタンにキレる、そしてキレるとかなり怖いという、なかなか香ばしい人です。

 かたや主人公「吽」である「きなりさん」は大学でゲージツを教えたり、なんか謎の活動をしているアーティスト、というか自由人。こむぎさん曰く「何気に美人」なのですが、その破天荒かつ豪快な性格ゆえに、こむぎさんをして「男性には扱えない」という剛の者。ガンガン突っ走る方ですが、しかし実はナイーブな性格のさびしがり屋という、ある意味「萌え」のポイントを押さえた人です。

 

 さて、好きなものを追及していくと何よりも楽しいのが「同好の士との語らい」です。あれ良いよね、これ良いよねと語らううちに、矢のように過ぎる時間。こむぎさんときなりさんも、舞台や映画を見に行っては、帰り道の喫茶店で語り合います。また2人はマンガやDVDを貸し借りします。しかし書籍やDVDというのはかさばるもので、やりとりするのも結構面倒です。加えて舞台を見に行くにも、連絡が上手く行かないと行き違いになってしまうことも多々あります。

 好きなものをずっと語り合いたい。マンガやDVDも気軽にやりとりしたい。舞台もバッチリ待ち合せしたい。そんな思いがこむぎさんにあるアイデアを思い付かせます。そうです、シェアハウスです!一緒に住んじゃえば簡単なことなのです!早速彼女たちは2DKの部屋を借り、そこで一緒に暮らしながら、思う存分イケメンの追っかけに邁進することになったのです!

 

 さて作者の竹内佐千子氏自身も相当な追っかけらしく、ですから作中で語られる「追っかけの日々」は非常に詳細かつ濃密で、(良い意味で)マズイことにテンションがえらいこと高いです。ホントにそんなことやってんのか?ていうか、そんなことして大丈夫なのか?という2人の爆走っぷり(きなりさんに至っては戦車による暴走と言っても良い)に、ただただ驚きと爆笑に持って行かれ、しかし何故か爽快感まで覚えます。

 このようにある種滑稽とも見える2人の行動ですが、しかし当人は大真面目であることに気付きますと、即座に好きなことに没頭している自分自身と重なります。そうなるともはや2人の行動は同志の微笑ましいものとなり、先程の爽快感の正体を知ります。つまり「ジャンルを超えた一体感」であり、「好きなものを追いかけるって素晴らしいなぁ!」という人生讃歌なのです。

 

 しかしこれだけだとただの「追っかけマンガ」です。ここにこむぎさんときなりさんのシェア生活が描かれることで、この作品の輝きが段違いに増します。一見、2人のシェア生活を描くことは作品世界に生活感、つまり単純に物語にリアリティを持たせることのように思えますが、しかし実はそれだけではありません。つまり、一方でテニミュ(「テニスの王子様」のミュージカル)鑑賞の様子を描き、他方で2人の職場や普通の日常の様子を描くことで、オンとオフの落差の違いを感じることになり、ひいてはオンの時の輝きが引き立つのです。この2人の劇的な変化こそが、この作品の唯一無二の魅力なのです。

 

 さてこの作品はWebで連載されており、この度3巻が刊行されました。2人の追っかけはお隣さんや2人の肉親も巻き込み、さらにパワーアップしています。一応Webでも過去の作品を読むことが出来ますが(単行本収録作品は一部閲覧出来ません)、私はPCを立ち上げるのが面倒臭いのと全話閲覧出来ないこと、それに結局本が好きなので、書籍版を買ってしまいました。えぇ、非常に満足です。書下ろしもあるし。なので興味のある方はこちらをご覧ください。

 今後も私はこの追っかけの2人を追っかけることに夢中になるでしょう。そして好きなものに向かって徹底的に突っ走る2人に羨ましさを感じ、「あ、オレ何ボンヤリ暮らしてるんだ!?」と我に返って、積んだままの小説とかやってないゲームに興じるのです。そして「あぁ!楽しい!やっぱサイコー!」と全身の細胞の活性化を感じるのです。

 

 みなさん、日々を惰性で過ごして、自分の好きなものを忘れていませんか?でしたら是非、この2人の奮闘を見て、また一緒に好きなものを追いかけていきましょう。それでこそ「生きている」と言えるのですから。



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todome

過去のホームページ時代より寄稿させていただいておりましたが、とある作品を完結させぬままに十数年すっかり忘れ、この度親方の号令により、再び参加と相成りました、todomeと申します。 主に小話を寄稿させておりますが、マンガ、ゲームにつきましても、今後ご紹介させていただこうかと思っております。どうぞお付き合いください。

 - 本・コミック, トドメ氏

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